横浜市福祉のまちづくり条例改正に関する推進会議 意見書 令和6年6月 横浜市福祉のまちづくり推進会議 横浜市福祉のまちづくり専門委員会 1 検討の概要 (1)検討の体制 横浜市福祉のまちづくり推進会議は、市長の諮問に応じ、福祉のまちづくりの推進に関する基本的事項を調査審議するため、市長の附属機関として設置された。 また横浜市福祉のまちづくり専門委員会は、推進会議の承認を得て設置される下部組織で、福祉のまちづくりに係る専門的事項の検討や事務局への助言などを目的に設置される。 横浜市福祉のまちづくり条例改正の内容を検討するための横浜市福祉のまちづくり専門委員会は、第49回横浜市福祉のまちづくり推進会議(令和4年12月19日開催)にて、承認を得て立ち上げられた。 横浜市福祉のまちづくり条例(以下、福祉のまちづくり条例という)抜粋 (設置) 第7条 市長の諮問に応じ、福祉のまちづくりの推進に関する基本的事項を調査審議するため、市長の附属機関として、横浜市福祉のまちづくり推進会議(以下「推進会議」という。)を置く。 2 推進会議は、福祉のまちづくりの推進に関する基本的事項について、市長に意見を述べることができる。 3 推進会議に、必要に応じ小委員会又は専門委員会を置くことができる。 (2)検討の対象となる条文 提言の対象は、福祉のまちづくり条例の前文、第1条「目的」、第2条「定義」、第3条「市の責務」、第4条「事業者の責務」、第18条「市民参画の確保」となる。 (3)検討の論点 近年、日本においては、障害者権利条約への批准や障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(以下、「障害者差別解消法」という)など関連法の整備が行われ、福祉の分野において、新しい考え方が示されている。関連法では、高齢者、障害者等が暮らしやすいまちづくりを推進するため、建築物のバリアフリー化を推進するとともに、心のバリアフリーの促進と併せ、ハード・ソフト両面からの取組が求められている。 特に令和3年6月4日に公布された障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律により改正された障害者差別解消法(以下、「改正障害者差別解消法」という)の民間事業者による合理的配慮の提供義務化を受け、ソフト分野のさらなる充実が求められている。 こうした点を踏まえ、以下を本検討の主たる論点とする。 福祉のまちづくり条例について、理念規定に関して近年の福祉分野における社会変化を踏まえた見直しを検討する。また民間事業者による合理的配慮の提供義務化などを踏まえ、福祉のまちづくり条例におけるソフト施策の充実について検討を行う。 (4)検討スケジュール 専門委員会 第1回、令和5年3月2日木曜日 副委員長選出 条例改正事務局案 スケジュールについて 第2回 令和5年6月16日金曜日 条例改正案について 事務手続きについて 事業者向けヒアリングについて 第3回 令和5年6月26日月曜日 条例改正案検討、前文、定義「高齢者・障害者等」 第4回 令和5年10月30日月曜日 条例改正案検討、行政、事業者、市民の責務、市民参画の確保 第5回 令和5年12月20日水曜日 条例改正案検討、行政、事業者、市民の責務、市民参画の確保、専門委員会案とりまとめ、スケジュールについて、事業者向け研修資料の共有 上記のほか、「合理的配慮の提供」に関するチェックシートの内容を検討するため、作業部会を設置し検討、令和5年8月15日から令和5年10月3日まで全5回実施) 推進会議 第49回、令和4年12月19日月曜日 ソフト施策の強化を目的とした条例改正の検討体制について 第50回、令和5年7月10日月曜日 専門委員会の検討状況について 第52回、令和6年7月31日水曜日 条例改正に係るパブリックコメントの実施について 第53回 令和6年度中に実施予定 条例改正に係るパブリックコメントの結果について(報告) 2、福祉のまちづくり条例改正の背景について これまで、法基準の変更に伴う福祉のまちづくり条例施行規則の改正は行われてきた一方、障害者権利条約及びその関連法が示した理念等の反映が行われてこなかった。 そこで福祉のまちづくり条例改正にあたっては、以下の社会の変化を踏まえた改正が必要である。 (1)個人(医学)モデルから社会モデルへの転換 これまで障害とは個人の身体にあり、リハビリテーションや治療などにより個人が克服するものという、いわゆる個人モデルとして捉えられてきた。 それに対して、社会モデルとは、障害が個人の機能障害と社会環境の相互作用によってもたらされるものであり、この障害を解消する責任は社会にあるという考え方になる。 社会モデルによる障害のとらえ方は、今後の福祉施策を考える中で、最も重要な観点であるが、平成249年に全部改正制定された 横浜市福祉のまちづくり条例には、この社会モデルの観点で施策を進めていくことが明記されていない。 今回の改正では、社会モデルの観点から障害をとらえなおし、条例に明記すべきである。 (2) 社会的障壁(バリア)の除去 社会モデルの考えに基づき、関連法では「高齢者、障害者等にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のもの」を社会的障壁と定義し、事業者や行政にこれらを除去することを求めている。 さらに障害者差別解消法では、社会的障壁の除去の実施について、必要かつ合理的な配慮を的確に行うために、自ら設置する施設の構造の改善及び設備の整備、関係職員に対する研修その他の必要な環境の整備を行うことを求めている。 福祉のまちづくりとして定義に規定している環境の整備を実施するためにも、条例中で社会的障壁の除去に言及するとともに、手段として示されている合理的配慮の提供が行政・事業者共に着実に実施されるよう、仕組み作りが必要である。 (3)合理的配慮の提供義務化 障害者権利条約では、平等を促進し、及び差別を撤廃することを目的として、合理的配慮が提供されることを確保するための全ての適当な措置をとると記載されている。 そして改正障害者差別解消法では、民間事業者も含め合理的配慮の提供が義務化されたところである。さらに同法では、社会的障壁の除去の実施について、必要かつ合理的な配慮を的確に行うために、従来のハード整備に加えて研修など必要な環境の整備を行うことを求めている。 このことを踏まえ、福祉のまちづくりで掲げる環境整備を推進するため、合理的配慮について、認識を深め、実践に繋げていく必要がある。 (4)「共生社会の実現」の明記 障害者権利条約に先立って整備された関連法では、目的や基本理念に共生社会の実現が明記されている。福祉のまちづくり条例は、市独自の条例ではあるものの、社会全体の変化を踏まえ、関連する法律などとの整合性を取ることを目指すべきである。 3、改正の方向性 条例において、福祉のまちづくりとは「高齢者、障害者等を含む全ての人が相互に交流し、支え合うとともに、安全かつ円滑に施設を利用することができ、あらゆる分野の活動に参加することができる環境を整備すること」としている。 これまで、この環境を整備するための具体的な取組は、条例に基づく事前協議を通じたハード整備が中心であり、ソフト面の取組は、福祉のまちづくり推進指針をはじめとした広報による障害理解などの啓発にとどまってきた。 しかしすでに述べてきたとおり、社会においては個人モデルから社会モデルへの意識転換が行われ、高齢者・障害者等が社会生活又は日常生活において直面する社会的障壁が、ハード面のみならず制度や慣行、観念その他一切のものであることが示されている。 さらに障害者差別解消法では、社会的障壁の除去の実施について、必要な合理的配慮の提供を的確に行うため、ハード面の整備に加えて研修などの必要な環境の整備を責務としている。 つまり、これまでのハード面の整備だけでは、福祉のまちづくりとして定義されている環境の整備 を達成することができないと示されている。 今回の改正の意義は、これまでのハードの環境整備に加えて、さらに一歩踏み込んだソフト面の取組が必要であることを明らかにするとともに条例に基づく事前協議を通じたソフト面の取組を創設するための根拠を示すことにある。 以下に、今回検討対象としている条文の改正について記載する。 (1)前文   現条例の前文は、平成24年条例改正の際に設けられたが、以降、修正されておらず、時代の変化に伴い出てきた障害者差別解消法や改正バリアフリー法などの考え方が取り入れられていない。前文は各条文の解釈に影響を与えるものであることから、新しい考え方に基づいた福祉のまちづくりを推進するためにも前文を修正する必要がある。 また近年の課題として取り上げられている少子高齢化や孤立は、依然として課題としてありつつも、近年とはいいがたい。課題として取り上げるのであれば、今まで認識されてこなかった価値観の多様化こそが新たな課題になっている。 特に福祉のまちづくりの基本理念として記載されている部分については、高齢者・障害者等の人権と尊厳の観点からも表現を改めなければならない箇所がある。 以上を踏まえ、今回の改正においては、前文中に、近年の課題である価値観の多様化、社会的障壁の除去の必要性、そして人権と尊厳の尊重を基本とする内容に修正することで、福祉のまちづくり条例の各施策が、何を基礎として、何を目指して行われているのかを明確にする。 特に福祉のまちづくり条例による施策が、従来の「心・やさしさ・」や「やさしさ」等を基調としたものから、障害者権利条約にもある人権と尊厳の尊重を基本理念としたものへと転換することは、非常に重要なことである。 (2)目的 前文と同様、平成24年以降修正をしておらず、障害者権利条約及びその関連法改正で示された「社会的障壁の除去」や「共生社会の実現」といった新しい考えが明記されていない 。 また平成24年の条例改正の際にも、福祉のまちづくり委員から懸念されていたとおり、条文中にバリアフリー法の引用が入ることで、福祉のまちづくり条例がハードの規定をする条例という一面的な見方が強まりやすい傾向がある。 以上を踏まえ、今回の改正においては、まず目的規定として新たに「社会的障壁の除去に資すること」を記載することで、これまで福祉のまちづくりとして行われてきたハード面の社会的障壁の除去に加えて、それ以外の社会的障壁の除去に資することを目的としていることを示す。 これにより、社会的障壁の除去の実施について、必要な合理的配慮の提供をはじめとしたソフト面の取組を福祉のまちづくりの一環として求めていることを示す。 またこれらのハードとソフトの両面からの取組によって目指すべき姿として「共生社会」を掲げることで、関連法との整合性を図り、市民、事業者、行政が一体となって強力に推し進めていくことを示すことができる。    (3)定義 すでに述べた通り、社会モデルの考え方に基づいた障害のとらえ方が社会においてはスタンダードになっている。この定義についても、特に社会的障壁という言葉に重点を置いて、本人の身体ではなく社会的問題に目を向けているということを示すべきである。 またこれまでも福祉のまちづくり条例においては、妊産婦やけが人、乳幼児を連れた人、外国人などを対象としてきたが、条文中では「その他これらの者に準ずる日常生活又は社会生活に制限を受ける者」と記載されており、このことが伝わりづらかった。 これらの対象者も高齢者・障害者とともに列記することで、改めて福祉のまちづくり条例の対象者を示し、各施策においてもさらなる充実を図っていけるよう改正する 。     (4)市の責務及び事業者の責務 すでに目的規定でも述べた通り、福祉のまちづくりとして定義されている環境を実現するには、合理的配慮の提供を含めた一歩踏み込んだソフト面の取組強化が必要である。 そのためには福祉のまちづくりが目指す、高齢者、障害者等が安全かつ円滑に施設を利用でき、あらゆる活動に参加できる環境を整備するためには、福祉のまちづくり条例に基づく事前協議のなかで、合理的配慮について、認識を深め、実践に繋げていく仕組みが必要である。またこの仕組みが実効性のあるものとするためにも、市及び事業者の双方に義務付ける必要がある。 しかしながら、現在の責務規定は、「高齢者、障害者等が安全かつ円滑に利用できるようにするための措置を講ずる」とだけ記載され、具体的な手段も物理的環境の整備に留まっている。 そこで、福祉のまちづくり条例に基づく事前協議の中で、事業者や建築主が自らの責務として、合理的配慮について理解するとともに、施設を使用する事業者や市民に、合理的配慮を提供することについて意思表示(表明)する仕組みを新たに設けるなど、より具体的な行動につなげていくためには、その根拠が必要と考える。 これにより市・事業者の双方が、社会的障壁の除去に資するような措置を講ずることで、ハードとソフトの両面からの福祉のまちづくりがをさらに推進していくことを期待する。 (5)市民参画の確保 障害者権利条約は「私たちのことを私たち抜きで決めないで(Nothing About Us Without Us)」を合言葉に、障害当事者が参加して作成された。この流れを受けて、今後、行政のさまざまな計画策定にあたっては、当事者参画が当然、推進されていくべきである。 横浜市では、すでに個別の事案で、当事者参画が図られている事業がいくつかある。またこれまでも福祉のまちづくりの施策の一環として福祉のまちづくり推進指針のなかでも、当事者参画の重要性を訴えてきている。しかしながら、横浜市全体としては、当事者参画を積極的に推し進めているとはいいがたい。 今回の改正においては、福祉のまちづくり条例に、公共施設の整備計画等で当事者参画を推し進めていくことを明記し、これを契機根拠として民間の施設計画等においても当事者参画が進み、横浜におけるインクルーシブなまちづくりを推進していくことに繋がっていくことを期待する。 4 まとめ これらの要素を取り入れた条例改正により、これまでのハード偏重によるバリアフリー推進から、ハードとソフトの両面からのバリアフリー推進へ脱却し、共生社会の実現に資することを目指す。